演劇ニュース
レビュー: 雨の後のヨーロッパ、マーキュリー劇場コルチェスター ✭✭✭✭
掲載日
2018年6月4日
作成者
ポールデイヴィス
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ポール・T・デイヴィスが、2017年マーキュリー劇作賞受賞作、オリヴァー・ベネット作『Europe After The Rain』をレビュー。マーキュリー・シアター(コルチェスター)で上演中。
ジェームズ・アレクサンドルー(ウィル)とアンナ・コヴァル(ヤナ)出演『Europe After The Rain』。写真:ロバート・デイ 『Europe After the Rain』 マーキュリー・シアター(コルチェスター)。
2018年5月31日
星4つ
2017年マーキュリー劇作賞受賞作であるオリヴァー・ベネットの本作は、いわゆる「ポスト・ブレグジット劇」というよりも、むしろ“ポスト・ポスト・ブレグジット”の世界を舞台にしている。アメリカがNATOから離脱した未来――ウクライナからの難民がイングランドへ押し寄せ、さらに不穏なことに、極右のポピュリスト政党が英国選挙で勝利寸前という設定だ。トランプのツイッターを見ていると妙に現実味を帯びるこの巨大な政治背景が、過去から逃れてきた4人の疲弊した人物それぞれの私生活へと落とし込まれていく。興味深いのは、舞台となる場所が偽のビーチであること。波の音でさえカセットで流され、ウィルの父が作り出したものだという。ウィルは難民のヤナと娘マルタを匿っているが、そこへウィルの旧友マックスがこのビーチに突然転がり込み、三者のあいだにある脆い力関係は揺れ動き始める。
サイモン・ヘインズ(マックス)とナターシャ・カフカ(マルタ)出演『Europe After The Rain』。写真:ロバート・デイ
カーラ・ノーランの引き締まった想像力豊かな演出は、人物像を深く掘り下げ、力強いキャストが脚本のリズムを見事に奏でている。ジェームズ・アレクサンドルーは、いかにも威圧的なマックスを強烈に造形。利他的な行いでありながら常に称賛を求めてしまう人物で、アンナ・コヴァル演じる冷ややかなヤナと激しくぶつかる。ヤナは人生の新たな枠組みを築こうとしながら、ウィルが信じているものとは異なる過去を覆い隠している。ナターシャ・カフカは、ティーンエイジャーの娘マルタを繊細に体現。ネットの性格診断やクイズに頼って自分のアイデンティティを形作ろうとしつつ、母に振り回され続けることにうんざりしている。そしてサイモン・ヘインズは(現実に根差した確かな計画を持たない)どこか胡散臭い夢想家のマックスを見事に演じ、機知に富み笑いも生む一方で、この偽ビーチの“真実”を暴き出していく。
アンナ・コヴァル(ヤナ)とナターシャ・カフカ(マルタ)出演『Europe After The Rain』。写真:ロバート・デイ
いくつかのアイデアは掘り下げ不足にも感じる。マックスはナルコレプシー(睡眠発作)で意識を失うのだが、その設定は一貫して活かされず、主に場面転換のきっかけとして使われる程度に留まっている。また、ヤナとマルタの関係も、もっと掘り下げられたはずだ――マルタは自分の未来をどう切り開けるのか? とはいえ、子どもの頃の海辺への小旅行の記憶を呼び起こす「理想化された英国」の象徴として、このビーチが住人たちによって次第にゴミだらけで汚れていく過程は実に示唆的だ。とりわけ、ウィルの父が右派政党の人気を仕掛けた黒幕だと露見し、彼らが権力へとなだれ込むなかで、ウィルが“それしか道がない”と彼らのもとで働くことを考え始める場面は強烈である。マックスは風景を作り替えようとし、真実やアイデンティティを埋めるようにしていくが、やがて強い風が吹き始める――それは偽物ではなく、いずれこの場所そのものをも侵食していく風だ。
アンナ・コヴァル(ヤナ)、ジェームズ・アレクサンドルー(ウィル)、サイモン・ヘインズ(マックス)出演『Europe After The Rain』。写真:ロバート・デイ
オリヴァー・ベネットは、アイデアに満ちあふれた戯曲を書き上げた。人物と状況をめぐる議論を十分に展開できる一方で、上演時間は理想的にコンパクト。アメリア・ジェーン・ハンキンの効果的な美術はロープを用いて牢の格子を作り、非現実の環境に囚われた登場人物たちをいっそう際立たせる。印象的な劇作デビューで、惹きつけられ、楽しめる一本。刺激的でエンタメ性も高い新作として、ぜひ観ておきたい。
2018年6月9日まで
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